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米国で証券化が発達した背景には、債券発行など直接金融より銀行融資など間接金融の方が資金調達コストが高い金利構造があった。
そのため銀行融資(間接金融)を担保にした有価証券を作って、直接金融の市場から資金を調達する証券化を実施すると、調達コストを間接金融より引き下げられた。
しかも金融機関は、証券化をアレンジする手数料を稼げた。
ところが日本では、通常の企業の場合、債券を発行して資金を調達するより銀行から融資を受ける方が調達コストは低い。
このため融資を担保に証券化商品を作って資金調達しても、企業に調達コストの妙味が生じない。
妙味が生じるのは、銀行が普通の金利で資金を貸さないような経営内容の悪い企業にとってであり、ABSを支援するのにはそもそも無理があった。
さらに、パーセルI員会が作成しようとしていた新しい自己資本比率規制(パーゼルE)も足かせになった。
新しい規制案では、売掛債権を証券化する際には債務者の信用リスクのほかに、売った商品に傷があることがわかるなど、担保資産の価値が減価するリスクも勘案しなければならなくなった。
例えば、A社がB社に商品を販売した際の売掛債権を担保にABCPを作るとする。
作る銀行にとっては、B社の信用リスクに担保の希薄化リスク(A社のリスク)を加えたリスク負担になる。
担保資産の減価に関する統計があればリスク負担を軽くできるが、日本では売った商品に傷があれば売った側が商品を取り替えるので、担保資産の減価に関する統計はない。
銀行のリスク負担感は、証券化が抜け穴になっていたパーゼルーではゼロだったが、パーゼルEでは最大200%近くに増える計算だった。
日銀のABSの買い入れは低調だった。
日銀首脳は、自民党などに向けてはABSの担保になり得る銀行の中小企業向け融資は270兆円、中小企業が保有する売掛債権は卯兆円と大風日敷を広げたが、実際の買い入れ上限は1兆円に定められた。
ふたを開けてみると中小企業向け融資は転売できないものもあり、買い入れ額は1000億円程度で推移した。
ABS買い入れは、日銀が企業を支援している姿勢を永田町に示すためのパフォーマンスにとどまり、金融政策としての効果はほとんどなく失敗に終わった。
日銀のABS買い入れは空振りに終わったが、証券化を振興しようとの動きは、一部の業者と学者のあいだで続いた。
財務省・財務総合政策研究所は、2004年に「資金循環における市場型間接金融の役割に関する研究会」を設けた。
間接金融中心の金融システムが機能不全を起こしているので、証券化など市場型間接金融に期待しようとした。
研究会の座長には金融審議会などで活動するI慶応義塾大学経済学部教授が就き、学者からはH中央大学総合政策学部教授などが入った。
証券化に期待する証券界からは、N資本市場研究所、N証券、Nアセットマネジメント、D総研から担当者が参加。
銀行グループからは、M証券が市場営業グループの投資戦略担当とストラクチャードファイナンスグループ制度・ニュービジネス担当の2人を参加させたのが目立った。
同研究会が市場型間接金融と位置付けたのは証券化商品、投資信託、シンジケートローンだった。
ただしシンジケートローンは、欧米では1980年代から多用されている融資の一形態だった。
投資信託は、米国では証券の中心商品になっており、日本でも古くから存在した。
例えばシンジケートローンは、Mコーポレート銀行が欧米から20年以上遅れた00年代後半から力を入れ始めていたが、これらを新しい金融チャネルと位置付けるのは日本の金融の後進性を示すものにほかならなかった。
日本を訪れた欧米の金融学者やエコノミストは、「市場型間接金融」を奇異な目で見ていた。
市場型間接金融の議論は、証券化などを後押しするものだった。
学者などは、「証券化には資金調達サイド、投資家サイドに強いニーズがある」「証券化を支える金融技術についても金融工学の発展で国際的に遜色がない水準にある」「資産の流動化に関する法律(新SPC法)など制度インフラが整っている」「組成、分析、投資などでの専門的な人材も育ってきている」などと主張した。
証券化が抱える問題点として、金融取引が複数の段階に分化され、そこにさまざまな業者がかかわることによる倫理の欠知(モラルハザード)が起こり得る点が言及されはした。
しかし「こうした費用は必ずしも重要でないかもしれない。
市場型間接金融は従来型の間接金融と並行する形で導入される。
市場型間接金融の舞台設定だけをしておけば、あとは市場が判断し、効率的な形態が積極的に利用される」などと断じている。
この研究会が議論を進めているころ、米国ではサブプライムローンを担保にした証券化商品の組成が爆発的に増えていた。
従来の融資による間接金融と平行して利用されていたが、証券化にかかわる専門業者が儲かる仕組みになっていたことが、市場の拡大を後押しした。
住宅融資をする業者は、融資リスクを証券化商品の投資家に転嫁できるので、返済できそうにない人にどんどん融資を実行した。
不良資産を担保にした不良証券化商品が大量に作られ、十分な説明も情報開示もないまま投資家に販売された。
日本で市場型間接金融を推進していた人たちには、米国の実情は全く見えていなかった。
中リスク・中リターンのウソ日銀や市場型間接金融の役割に関する研究会の後押しを受けて、日本でも証券化は徐々に広がった。
資産流動型スキームとされたABSの発行額は、2006年には9兆8000億円に迫り、社債発行に匹敵する規模になった。
消費者ローンと不動産関連を裏付けにした証券化商品の発行が増えたのが大きかった。
資産運用型スキームでは、REITが5月に時価総額で7兆円に追った。
また不動産に投資する私募ファンドは拡大した。
新SPC法でSPCの借り入れ規制を緩和したことから、借り入れで規模を拡大する投資(レパレッジをかけた投資)が実施され、投資規模が膨らんだ。
これとは別に、外資系金融機関などが、欧米で組成された証券化商品を国内の金融機関や投資家に販売した。
信用金庫や第二地方銀行などの地域金融機関は、証券化商品のリスクを十分に理解できなかったが、販売時に日銀や「資金循環における市場型間接金融の役割に関する研究会」の資料が添付されたことが、不安を緩める役割を果たした。
国内金融機関(農林中央金庫除く、金融庁調べ)の証券化商品の保有額は、6月末で1兆5000億ドル、サブプライムローン関連が9580億円となっている。
実は証券化は、日本で必ずしも順調に拡大してきたわけではない。
さまざまなリスクが表面化していた。
最も古くからある抵当証券は、1995年の兵庫銀行の破綻でリスクが浮き彫りになった。
銀行債務は保護されたが、系列の抵当証券については元本保証はされなかった。
資産担保証券では、証券化を組成し資金調達していた業者の破綻は少なくない。
証券化はもともと、資金繰りの厳しいノンバンクが調達手段として利用するケースが多いためだ。
実際に、N、R、Fが破綻している。
一部で回収金が段損したものの、ABSの裏付けとなっている債権は正常に利払いが続き、ABS自体は問題なく償還された。
9月にはCが民事再生法適用を申請した。
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